母江が姫夫妻の家に1泊して帰ってきてから、「私は老人ホームでもどこでも行くよ」と言い出した。こう言うのは別に今に始まったことではないが、やはりこの家に居るのが一番心地良いので、去年2度行ったホームの体験入居の時も三日もすると家に帰りたいと言って大変だった。
「どうせ老人ホームに行ってもすぐに帰りたいと言うのだから、その前に姫子のところで１ヶ月くらい居たら？」
「やだよ、あんなところに行ったって、姫子は何もしてくれない」
このあいだ母江が一泊した時も世話をしてくれたのは姫夫だと言っていた。
だから１ヶ月ほど一緒に生活すれば、姫子でも多少は母江の介護とか認知症とかを身を持って理解するのではないかと思った。
ところが、太郎のご近所さんから母江に電話がかかってくると、
「今度、太郎の家に１ヶ月くらい居ることになりました」
と全然違うことを話していた。
「太郎のところではなくて、姫子のところだよ」
と言えば、
「そうかい、じゃあ姫子に電話するよ」
と言って電話で、
「明日、そっちへ行くからね。迎えにくるのたいへんだから、電車でそっちへ行くよ」
明日はクリニックでワクチンの予約をしてあるのに、話が全部ぶっ飛んでしまう。
