今日も暑い1日だった。できれば大人しくしてもらいたかったが、母江が浅草橋まで行きたいと言った。
行けば、「足が痛い、疲れた、歩けない」と言うに決まっている、それでも行きたいと言うので連れて行った。
月曜日なので弁護士先生からメールが来るかもしれない。メールはどこにいてもチェックできるが、ベランダの木材が月曜日か火曜日に来ると太郎のメールに書いてあったが、多分今週も、来週も、その次の週も来ないと思うので、出かけることにした。どうゆうわけか長男太郎の周りにはそういう類いの人たちで構成されているようだ。
荻窪から中央線に乗ると、優先席が二つ空いていたので、そのに座らせようと思い、母江を誘導したら、その手前で男の人が母江に席を譲ったために母江が座った。三郎は前に立った。
阿佐ヶ谷に着いたとき優先席まで歩いて欲しい、とお願いしたが、断られた。仕方がないので、三郎は立ったまま耐えた。
電車内はちょうど席だけが埋まっているくらいの状態で四谷でようやく母江の隣の席が空いた。母江は隣に座れば?と言うゼスチャーをしたが、すぐには座らなかった。と言うのも母江の隣の空いた席はバーがあり、その反対の席は角席なので、寄っかかりより快適に座れそうだったし、ちょうど、その席の人が四谷駅で止まった時に降りたので、しめしめ、と思いようやく座ることができた。
すぐに座らなかった三郎に対し、怒っているのかと勘違いをした母江が「お父さんにそっくり」と言った。
「いや、親父に一番よく似ているのは姫子だ。あれは生き写しだ」と言ってあげた。
四谷で座ったが、次の停車駅のお茶の水で降りて、向かいのホームの総武線に乗り換えた。
浅草橋に着いたが、この駅の主要改札口は階段で母江は降りることができないので、エレベーターがある改札口まで長い距離を歩かなければならない。
駅から出るとちょうどお昼で母江は餃子が好物なので「王将」があり、入ろうとしたが待っている人がたくさんいたので諦めた。
次の「肉汁餃子のダンダダン」と、前から気になっていた店がすぐに入れそうだったので、ここにした。
入り口の3段階段がかなり急だったので、一回は入るのを諦めたが、母江を下から押したら、なんとか上がれた。
二十歳くらいのウエートレスにちょっと大きめの入り口近くのテーブルに座るように言われた。
他に空いているテーブルはなかったが、ちょうどお客が数組出ていった。
まだテーブルが片付いていないうちに三人組が入ってきた。
ウエートレスは「外でお待ちください」と言ってお客を待たせた。
そのテーブルの片付けが終わっても、ウエートレスは外で待っている三人を店には入れなかった。
その三人を見て、母江がゼスチャーでこっちこっちをしてテーブルを指差した。
「店には店のやり方があるのだから、放っておきなさい」と嗜めた。
少しすると三人はどこかへ行ってしまった。
幹枝が「イライラするねえ」と言うので、
「人のことだから放っておきなさい」ともう一度嗜めた。
母江は自分のことも儘ならないのに、他人のことが気になって仕方がないのだ。
それにしてもそれほど混んでいないのに頼んだ焼き餃子定食二人前もなかなか出てこなかった。
ガラス越しの厨房を見ると、若いにいちゃんが一人だけで調理しているようだった。
定食が出てきたので、母江のご飯を半分もらった。
餃子自体は肉汁があって美味かったが、母江は6ヶのうち3ヶしか食べなかった。やはり半年前より食欲が落ちている。
一人で入ってきたお客が餃子定食を頼んだが、調理場の若いにいちゃんが「すいません、焦がしてしまったので、少し時間がかかります」と謝っていた。
どうやら、お客をいっぺんに入れないのは慣れていないためだったようだ。
そのあとは問屋まで歩いて行ったが会員カードを忘れたので入店するのに少し手間取った。
問屋なので登録制になっている。
電話番号が母江の携帯でダメ、旧固定電話番号でもダメ、で今の固定電話番号でようやく情報がマッチした。
前回と同じように最上階の7階へ行き、全フロアを回って1万円ほどの買い物をした。
帰りに駅に向かうと歩くペースもだいぶ落ちてきて、足も痛いと言い出した。
最後の方で母江を歩行器に座らせて押した。これも進むには進むが足を持ち上げていなければならないのであまり長い距離は移動できない。
お茶の水で総武線から中央線に乗り換えるとiPhoneが見当たらなくなった。母江を押しているとにに落としたかもしれないし、乗り換えた時に総武線の車内に落としたかもしれない。どうしよう?そうだ、母江のiPhoneで探そう!と思い見てみると、一緒に移動している。どこにある?サウンドを鳴らしてみた。後ろのポケットに入っていた。いつも入れている左ではなく右に入っていた。三郎も疲れていた。
荻窪のタウンセブンのいつものアイスクリームを食べて一休みをしてバスに乗って帰ってきた。
今日は結局弁護士先生からメールはこなかった。今日一日考えて一つのアイデアが浮かんだのでそれも書いておく。
①三郎が所有している練馬の家の24分の5の権利の一部あるいは全部を母江への遺留分として母江に渡す。これは遺留分が現金でなくても良いと言う弁護士先生のプランBで精算できることが前提。
②三郎が所有しているアパートの4分の1の権利を太郎に贈与する。これならもしかしたら、贈与税は100万以下に抑えられるかもしれない。そして太郎はアパートの2分の1の権利と家賃収入も倍になるわけだし、悪い話ではないと思う。
家に帰ると母江が「鳥屋さんに書いた手紙がないが、出してくれたか?」と訊くので、
「出してない」と答え、「無くすんだから、書いたらすぐに三郎に渡して欲しい」と言うと、
「部屋に入って触るからどこかへいってしまう」と言うので、
「触っていない、だいたい書いた手紙は鳥屋さんじゃあなくて印刷屋さんでしょ!書いてもすぐに忘れる」
「忘れないよ」
こっちはその手紙が部屋にあることも、誰に手紙を書いているかも、そしてそれを忘れることも全部わかっている上で言っているのだ。