母江がまた証券会社の話を持ち出してきた。これから一人で出かけてくると言う。もうすでに電話で確認したから行くだけ無駄だと何度説明してもわかってくれない。
屋根修理に来ている太郎に助けを求めに上にあがり、下に降りてくると、母江が金庫を開けていて、手にはゆうちょの通帳を持っていた。
「あ〜〜、どこにあったの？」
「何が？」
「その通帳だよ」
「金庫の中だよ」
「そんなはずはない。昨日何度も探したもの」
「わたしは知らないよ」
無くしたことまで忘れてしまう、恐るべし認知症。
慌てて、郵便局に電話をしてら、昨日手続きをしてくれた局員さんで紛失を取り消しできると言ってくれた。ただし、本人を連れてこなければならない。
昼食を食べた後に郵便局に行こうとしたら、今度は金庫の鍵をどこにしまったか覚えていない。予備の鍵があるので問題はないが、その鍵を取りに行き、開けようとしたら母江が自分の部屋にあったと言って持ってきた。
やっと出かけられると思ったら、
「鍵を無くしたショックで疲れちゃったよ」
と言ってベッドに横になってしまった。
