母江がディサービスから帰ってくると、また「浅草橋で買ったものが届かない」と言い出した。
三郎が何を言ってもだめで、浅草橋の問屋に電話をかけ始めた。もう何もできないので、犬の散歩を兼ねて、ディサービスの介護士長さんに相談しに行った。
「家族の中に認知症患者がいる家はどこも同じような悩みを抱えているから仕方がない。ただ、うまく受け流すことが大事」とのことだ。それはわかるが三郎の性格上それも難しい。
家に帰るとまた母江がどこかに行ってしまった。位置情報を見たらちょうど帰ってきた。「どこに行ったのか」と尋ねると、
「駅前の交番に行ってきたが、閉まっていた」
「交番に行っても何もしてくれないよ」
「わかっている。問屋に電話しても『わからない』って言われた」
とにかく受け流すことにした。