午後は石神井公園の本屋に行きたいと言うので連れて行った。浅草橋まで行くのに比べれば、お安いご用だ。
帰ってくると、弁護士先生からメールがあった。明日、預けていたファイルを事務所まで取りに行くことになった。
メールにはファイルのことしか書いていなくて、どうも見捨てられた感がある。
夕食後、母江が部屋にやってきた。
「浅草橋の荷物は届いたかい?」
「荷物を持って帰ったのを覚えていないんだ!」
「知らないよ」
「知らないんじゃあなくて忘れたんだよ」
「そんなことないよ」
「そんなことなくないんだよ」
「冗談じゃあないよ!」
「冗談じゃあないのはこっちだよ!しょうがないんだよ、忘れちゃうんだから」
「忘れないよ」
「買ってきた袋が階段の下にあるよ、ほら、中にハンガーとか袋があるでしょ?中身は自分でどこかにしまって、どこにしまったか忘れてしまったんだよ。だからこの家の何処かに必ずあるよ」
この間の手紙と同じだ。そしてまた全てを忘れてしまう。