玄関先にセットしてあるセキュリティーカメラが反応したので、覗いてみると、母江が出かけようとしていた。
今日もすでに猛暑日になっているので、一人で出て行かせなくなかった。猛暑日でなくても出て行かせたくはないが、掻い潜って出ていってしまうので仕方ない。
「どこに行くのか」と尋ねると「すぐそこの和菓子屋さん」だと言う。「財布の中に1万円の預かり証が入っているから、なぜこれがあるのか」を訊きに行くとのことだ。
「それはこの間、餅を買いに行って、その餅ができるまでの間のもので、その後餅も領収書ももらったのでもういいんだよ」
と言っても納得ができないようなので、一緒に和菓子屋さんまで行った。
和菓子屋さんで、全く同じ説明を受けて、
「あら、そうなの?わかったわ」と言って店を後にした。
私一人店に残り、
「あの、母は認知症なんですけど、気がついていましたか?」と訊くと、
びっくりした様子で「そうなんですか?」と言った。
毎日のように顔を合わせて挨拶もして、会話もしているのにわからない人にはわからないのだ。
「何かありましたら、私に声をかけてください」とお願いして、店を出た。